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永遠のものなどないのだけど・・・

manuel

毎週土曜日には陶芸教室に通っている。
なんともう18年にもなるのだそうだ。
ひとつも飽きず、毎週金曜の夜には明日は何作ろうかな〜?
楽しみに土曜を迎える。私は午前のクラスで11:00〜13:00
なのだけれど、毎週行くのは12時過ぎ、仕事が遅い私は午後の部が
始まる14:30までロクロをひき、作業が終わらない時は午後の部に
混ざって延々と続ける。こんな自由な教室はなかなかないだろう。
先生が「あくつさん、終わるまで」と言ってくれるのですっかり甘えていた。

なによりこんなにも長く続けているのは先生であるマヌエルさんの
人柄によるもので、私の他にも18年続けている人が何人もおり、
10年以上の人も沢山いる。マヌエルさんが良いから、教室の生徒も
嫌な人などおらず、心地よい空間であるのだ。
スペイン人なのに寡黙で、待ち合わせがあれば30分も前に行ってしまう程
真面目で几帳面。日本人よりも日本人らしい。陽気な日本人の奥さんが
まるでスペイン人で、マヌエルさんは日本人のようだといつも話していた。
しかし寡黙でありながらユーモアがあり楽しく、こんな人は日本人には
いないだろう。

こんなにも長く続けていたらプロになっても・・・であるけれど、
そんな気はさらさらなく、いつまでも今のように続けていけたらそれでよかった。
時々友人と、マヌエルさんがいつまでも教室続けてくれるとは限らないし
辞めちゃったら私達どうする??と話していた。いつかそんな日もやってくると
思っていたけれど、それはあまりにも突然の事だった。

EURO2012決勝を控えた先々週土曜日はいつにも増して時間がかかってしまい
なんと夕方6時まで居座ってしまった。帰り際マヌエルさんが
「スペインとイタリア、どちらを応援しますか」?と聞くから
「もちろんスペインです!スペインが勝つといいね」
「あくつさんはLIVEで見ますか?」「見るよ〜!」「僕は寝てるね。
インターネットで見ます」「個展がんばってね!」そう話して教室を後にした。
木曜日から1年振りの個展の予定だった。個展の初日午後に行くといい作品は
売約済みになってしまうので午前中に行くつもりでいた。

そのマヌエルさんがあっという間に逝ってしまった・・・
わずか3日後、前回のブログを書いた月曜日、マヌエルさんの事にも
ふれていたが、その翌日に、急性心筋梗塞だった。

あまりに突然の事で、知らせを聞き呆然とした。そして自分の中で
マヌエルさんの存在がいかに大切で大きな部分をしめていたのか
気づかされたのだった。

マヌエルさんは花が大好きで自然を愛した人だった。緑の手を持つ人が
いると言うけれど、まさにその人だった。マヌエルさんが育てると
なんでも大きく育つのだ。今年になって蓮の花に凝り始め、大賀ハスを
お寺の住職から分けてもらって育てているところで、私は去年、なんの
種類か知らないけれど蓮の種から育てているので、蓮の話、そしてメダカ
の話をよくしていた。「こんどメダカを交換しましょう」「いいよ、いま
子供が100匹くらいいるから。エビも生まれているからもう少し経ったら
持ってくるね」先々週には素焼きの皿に載った苔を母に貰ったばかりだった。
「お母さんに」とよくバラの花を切って持たせてくれて、母を感動させていた。
冬にはお互い庭に来る野鳥に餌を与えていて、よく野鳥の話をした。
春には一緒にお花見もした。

ある時「あくつさんこれ見て」箱の蓋を開けたので覗いて『きゃ〜!』
と思わず叫んだ事がある。カラフルな柄の幼虫が入っていたのだ。
「神様の形」(神が作った造形)と動物や植物の美しさにいつもそう言っていた。

サッカーの話もよくした。全然熱狂的ではないけれどスペイン人は当たり前
にサッカーが生活の一部にあった。マドリッド出身なのでやっぱり
レアルマドリを応援していたようだ。エジルが好きとよく話していた。
「あくつさん、エジルは好きですか?」「好きだよ」「彼はとてもいい選手ね」
ドイツVSイタリア戦の後「バロテッリはなぜブラック人なのにバロテッリですか?」
「彼はイタリア人の養子になったのね」「とても複雑なストーリーね」
興味をしめしていた。

マヌエルさんは40代に来日したので言葉が覚えられず、言語よりも感覚の
人であった為、20年以上住んでいても言葉が上手にならなかった。
でも、私にはマヌエルさんの言葉がよく理解できた。慣れというものか?

教室にはいろいろな人がいて、ストレスを感じる事もあるだろうけれど、
文句や愚痴を聞いた事がなく、使った道具がきちんと戻されていなくても
何も言わずに自分で片付ける人だった。そしてロクロをひこうとすれば
さっと水やハケ、スポンジなどの道具を揃えてくれて、何から何まで
してもらっていたのでぬるま湯に浸かった状態だった。「困った時は
ドラえもん助けてね」「ドラえもん〜!助けて」こう言ってうまくいかない
ものを直してもらっていた。

生徒の誰かが髪を切ると「髪切りましたか?」男性にも気がついて誉めていた。
さすがラテン系は違うと思った。私が明るい色の服を着て行くと「いい色
ですね」いつも誉めてくれた。

今、メダカを見るたび、蓮の葉が大きくなったのを見るたび、マヌエルさんを
思い出し、喪失感に戸惑う。私の大切な宝物が失われてしまったと。
宝物は永遠ではない。永遠のものなどなにもない。わかっていても
いつでもそこにあると思って日々を過ごしている。大切なものが
失われてしまった事に気づき、今まで見てきた風景が違ったものに
見える。すっかり色褪せてしまったように。

もう誉めてくれる人がいなくなっちゃったよ・・・あまりにいい人だったから
神様に早くそばに呼ばれてしまったのだろうね・・・

この喪失感は私だけでなく、マヌエルさんを取り巻く人すべてが
途方に暮れている。R.I.P......



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COMMENT 2

アリー  2012, 07. 09 [Mon] 14:11

突然の残念なニュース、びっくりしました・・・。
a92さんがいつも陶芸を楽しく続けている話を聞いていたので、
今回のブログを読んで、とても悲しくなりました。
今は喪失感でいっぱいだと思うけど、
これからはマヌエルさんとの思い出という宝物を、
心の中でずっと色鮮やかに、大切に持ち続けていって下さいね。
ご冥福を心よりお祈り申し上げます。R.I.P・・・。

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a92  2012, 07. 09 [Mon] 14:33

ありがとう。そうね、思い出を宝物にするわ。

今後陶芸とどう関わって行こうかすごい考えてる。

マヌエルさんの作品はもっと世の中で評価されてもいい
素晴らしいものなのに、本人に欲がなかったんだろうな。
回顧展とかして沢山の人にもっと見てもらいたい。
でも、亡くなってから評価されても仕方ないんだけど・・・

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